担当講義

学部/講義

農地土壌中の水や物質の管理,地下水や土壌汚染,砂漠化といった土壌に関わる様々な環境問題を扱う上で必要となる土壌中の水と物質移動現象の基礎理論を講述する.とくに,土壌の構成と構造,土壌水のエネルギー,土壌水の運動,土壌空気,土壌温度,土壌中の物質移動について述べる.灌漑排水学,水文学,地下水学といった応用分野の基礎として重要な内容である.

1.土壌物理学の意義
土壌と人間生活のかかわり,土壌の機能,土壌科学全般と土壌物理学
2.土壌の生成と三相分布
風化過程,土壌の三相分布を表す特性値
3.土壌の構成と構造
土壌の構成物質,粘土鉱物,土壌構造,粒度分析,比表面積
4.土壌水の状態
バルクの水の物理特性と毛管上昇現象,土壌水のエネルギー状態,土壌水分特性曲線
5.飽和土壌中の水の流れ
毛細管中での粘性流体の流れ,土壌水運動の基礎式,Darcyの法則,透水係数
6.不飽和土壌中の水の流れ
不飽和透水係数,Richards式,水蒸気移動
7.土壌中の熱現象
地表面近傍の熱収支,土壌の熱容量,土壌の熱伝導現象,熱と土壌水の同時移動現象
8.土壌空気とその移動
土壌空気の組成,土壌中のガス移動
9.土壌中の溶質移動
移流,拡散,分散,移流分散方程式,吸着等温線
10.地下水とその汚染
帯水層,地下水汚染物質 

人間活動と水の適切な相互関係を構築することが利水,治水,環境保全にとって重要であり,そのためには,地球上の水循環を中心概念とし,とくに陸域における降水,蒸発散,浸入,流出などの水循環過程および水中の各種物質の挙動を扱う「水文学」の知識が不可欠である.本授業では,水循環と水収支の概念,水循環の素過程を述べるとともに,応用的課題として,流出解析,水文統計解析でのモデル化手法,計算手法について詳述する.加えて,物質循環に関わる水質の基礎事項を説明する.

1.水循環と水収支
2.降水
3.蒸発散(メカニズム)
4.蒸発散(推定法)
5.地表水
6.土壌水と地下水
7.流出解析(合理式)
8.流出解析(洪水流出)
9.流出解析(長期流出)
10.水文統計解析(水文量の確率分布)
11.水文統計解析(確率分布の統計的推定)
12.水文統計解析(確率降雨波形)
13.水質(濃度)
14.水質(反応と移動)  

農地や農村においていかに水管理を行うかということは,作物生産のみならず環境保全のために極めて重要な課題である.水を制御する基本的な技術体系である「灌漑排水学」の基礎的・応用的な事項を講述する.具体的には,水を利用する側面からの水田灌漑と畑地灌漑,不要な水を排出する農地排水,これらを制御する農業水利システム,さらに農業水利システムが有する作物生産以外の多面的機能および水質保全,生態系保全,地球環境保全のための水管理について述べる.

1.灌漑排水の概略
2.水資源の利用
3.水田灌漑(実態)
4.水田灌漑(用水計画)
5.畑地灌漑(実態)
6.畑地灌漑(用水計画)
7.農地排水(圃場排水)
8.農地排水(地区・広域排水)
9.農業水利システム(農業水利施設)
10.農業水利システム(用水管理)
11.農業水利システムの多面的機能
12.水質環境の管理
13.生態系保全のための水管理
14.地球環境と灌漑排水 

大気環境に関する知識は,地球温暖化,大気質の悪化などの環境問題に関係するだけでなく,農業に大きな影響を与える冷害,干害などの農業気象災害の対策を考える上でも必要なものである.本授業では,地球の気温形成の基礎となる熱収支の概念,気象に影響する大気循環について詳述するとともに,農業に関わる気象災害とその対策について述べる.また,大気中の化学物質の動態を把握するための簡易モデルを説明し,現象をモデル化する手法の基本的な考え方を学ぶ.

1.大気の基礎
2.地球の熱収支
3.温室効果とそのモデル化
4.大気の流れと大気循環
5.雲の形成,降水
6.大気の安定性
7.台風,前線,局地気候
8.大気と海洋の相互作用
9.気象観測
10.天気予報
11.農業気象災害とその対策
12.農業気象災害対策としての水管理
13.大気中化学物質の動態
14.大気中化学物質濃度のモデル化 
  

学部/実験・演習・概論

土壌物理学,水環境工学の基礎的測定項目である土粒子の密度,乾燥密度,液性・塑性限界,粒径分布,飽和透水係数,土壌水分特性曲線に加え,土壌の熱伝導率の水分依存性や水の土壌に対する浸透能を測定するための実験法を講述し,これらの実験を行う.これによって,とくに土壌環境に関する測定技術を習得し,現象理解を深めることを目的とする.

1.現場土壌の三相分布
実際の現場土壌を乱さずサンプリングする方法を体得し,サンプリング試料をもとに,含水比,乾燥密度,土粒子密度,間隙率などを測定する.
2.土壌の状態とコンシステンシー限界
土壌の工学的性質の指標として利用されるコンシステンシー限界のうち,塑性限界と液性限界を測定し,塑性指数を決定する.
3.土壌の粒径加積曲線
土壌を構成する土粒子径の分布状態を表す粒度を測定し,均等係数,曲率係数などを決定する.土壌の土性分類も行う.
4.土壌水分特性曲線
土壌水分ポテンシャルと含水量の関係を表す土壌水分特性曲線を実験的に決定し,土壌水のエネルギーに関する理解を深める.
5.飽和透水係数・浸透能
土壌中の水移動を知る上で基礎となる飽和透水係数を測定し,併せてDarcy則を理解する.また,山林において土壌の浸透能を測定し,浸入式を理解する.
6.土壌温度環境の測定技術・センサーの作成
多くの分野で対象となる環境因子として温度を取り上げ,測定センサー(熱電対)の自作を通して,その測定原理を理解する.また,土壌の熱伝導率の測定を行い,熱伝導率と土壌水分量の関係を理解する.  

灌漑排水学は地域の水管理技術を体系化したものであるが,水の制御は水だけではなく物質や熱環境に影響を与えるため,環境に配慮した水・物質・熱環境管理のあり方を見出すために応用が可能である.このために必要な分析・診断法の基本的知識とパソコンを利用したその具体的な手法を身につけることを目的とする.すなわち,土壌を対象とした水・熱・物質の流れの数値解析手法,水文学的な流出解析手法のためのプログラムを作成する技術を習得する.さらに,具体的にデ-タを用いた計算を各自行って,その結果を議論する.
土壌中の水移動,熱移動の解析プログラムをエクセル上のVBA言語を用いて作成し,これを運用して解析結果について考察できるようにする.土壌中の水・熱・溶質移動解析プログラム(HYDRUS)を扱えるようにする.タンクモデルなどを用いた流出解析ができるようにする.また,自身で設定した現象の解析を行い,結果について的確にプレゼンテーションできるようにする.加えて,土壌中の水・熱・化学物質移動に関する演習問題(英文資料)に取り組み,その基礎的事項を理解する.

1.Excel VBAを用いた土壌中の熱移動のプログラミング
2.Excel VBAを用いた土壌中の浸透現象のプログラミング
3.HYDRUSを用いた浸潤・蒸発のシミュレーション
4.HYDRUSを用いた土壌水分特性の逆解析
5.HYDRUSを用いた土壌中の物質移動のシミュレーション
6.HYDRUSを用いた土壌中の熱移動のシミュレーション
7.流出解析
8.水・熱・溶質移動現象に関する問題設定と解析
9.水・熱・溶質移動現象に関する問題設定と解析の結果発表と議論
10.土壌中の水・物質・熱移動の演習 

地域環境工学を学ぶために必要なコンピュータ(パソコン)の利用法を学び,プログラミング言語(Fortran)を用いた数値解析手法得とExcelを用いたデータ処理技術を習得する.
1.計算機の概要とネットワーク計算機による情報処理の基本的な事項
2.Fortranの基礎

Fortranの基本的な事項を解説する
3.基礎的演習(1)
簡単な計算を通じて,実際にプログラムを書く手順を学習する.サブルーチン,入出力ファイルの操作を学ぶ.
4.基礎的演習(2)
IF文の使い方,組込み関数の使い方を学ぶ.
5.数値計算法の基礎
数値計算の概要,計算機を使った種々の計算法の例を示す.
6.数値計算法演習(1)
逐次代入法による反復法,ニュートンラプソン法を演習する.
7.数値計算法演習(2)
数値積分法,差分法を演習する.
8.数値計算法演習(3)
連立1次方程式の解法を演習する.
9.Excelの基礎
Excelの基本的な使い方を習得する.
10.Excelを使った演習I
マクロ機能を用いた計算を演習する.
11.Excelを使った演習II
データの統計処理法を演習する. 

地域環境工学科は水土緑系と食料エネルギー系から構成されるが、本講は水土緑系からみた概論科目である。人類が永続的に、快適で豊かな生活を実現していくためには、生産環境、生活環境並びに自然環境がバランスよく維持・発展していかなければならない。そのためには、水・土・大気・植物などの資源を有効に活用・管理・保全していくことが必要である。そのための問題点、対策、今後の研究課題等について事例を交えながら解説し、地域環境工学の社会的意義を考える。

8.地域環境管理の必要性と目標
 経済発展や食料増産のみを目的とした段階から持続的開発や環境保全とも両立させることが求められる中で展開している地域環境管理の課題を考える。

9.水循環と物質循環
 地域環境の健全な管理を行うために理解が必要となる地域の水循環と物質循環について解説する。

10.水田農業と畑地農業
 農地の異なる利用形態である水田と畑地における水管理と環境負荷となりうる窒素などの物質の管理について解説する。

11.環境保全のための地域環境管理
 農業活動が環境に与える正の影響と負の影響について解説するとともに、正の影響を強化し、負の影響を抑制するための管理について考える。

12.気候変動対応としての地域環境管理
 すでに始まっている気候変動に伴う気温上昇や豪雨・渇水被害の頻発化に対する適応策と温室効果ガス放出削減のための緩和策について考える。

13.地域環境管理工学講座の内容
 水環境工学分野と農村計画学分野の概要と研究紹介を行う。

14.地域環境工学と実務(2)
 地方自治体職員から地域環境工学の社会的意義と実務内容を学ぶ。

大学院

圃場レベルにおける水と物質の適切な管理は健全な地域環境を創出するために重要な課題である.本講義では,灌漑排水学,土壌物理学,水文学の基礎的な知識を踏まえて,適切な水と物質あるいは温度の管理方法を提案するための手順について講述する.講義の目的は,土壌中の水・物質移動や圃場からの流出現象の実践的な解析を行うことができる知識を提供することにある.

1. 求められる圃場の水・物質管理
2. 畑地の水管理と土壌水分移動解析
3. 畑地の土壌水分量制御(議論)
4. 畑地の窒素管理
5. 畑地土壌中の窒素動態解析
6. 畑地土壌の窒素動態制御(議論)
7. 畑地土壌の熱移動解析
8. 畑地土壌の地温制御(議論)
9. 水田の水管理
10. 水田の流出解析
11. 水田からの流出制御(議論)
12. 水田からの温室効果ガス放出
13. 水田土壌中の酸化還元環境の解析
14. 水田からのメタン放出抑制のための水管理(議論)

地域の水環境の管理にとって重要な一要素である「地下水」に関して,その基礎的な知識から環境問題に関わる応用的な知識までを講述する.すなわち,地下水の現代的な課題を述べるとともに,これらを解決するために必要となる,地下水の存在形態,地下水流動,地下水中の化学反応,地下水中の物質移動,地下水汚染とその浄化,地下水の熱的利用に関するこれまでの知見の習得を目指す.
1. 序論(環境地下水学,地下水の収支,地下水賦存量)
2. 人間活動と地下水環境(地球温暖化,地下水利用状況,法令)
3. 堆積物間隙の流体と流れの原理(多孔体,ダルシー則,NAPL)
4. 流れの数学モデル(地下水流動方程式,被圧地下水,不圧地下水,NAPL)
5. 地下水流動の解析的表現とその応用(定常流,非定常流,塩水侵入)
6. 地下水の化学(化学反応,酸化還元,イオン交換)
7. 地下水中の物質移動(分散,溶質移動)
8. 土壌・地下水の汚染と修復技術(汚染源,移動形態,調査と修復)
9. 土壌・地下水中の熱移動(熱伝導,自然対流,地下熱エネルギー)

水環境工学の基礎となる環境物理学、水文学、大気環境学、土壌物理学などに習熟するために、各分野の基礎的法則を,洋書を通して理解するとともに,数学的・理化学的な専門用語(英語)を修得する.また,国外を中心とした論文を通して,最新の研究例を紹介・討議し,その動向を検討する.

水環境工学の研究に必要な水文・気象・水質などの諸現象に関する実験手法や調査手法を修得する.また,講義で得た知識を具体的に理解するために現地調査を行い,問題の実態や自然現象を適切に把握し評価する方法論を身につけさせる.さらに,環境問題を適切に解釈することの重要性を認識できるようにする.

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